五町田の黒い影
合宿の宿を出て「このメンバーはみな黒好きじゃないか」と、松澤さんは言った。確かに同乗の4人は偶然にも黒基調の服装とバッグだった。寄ったコンビニで「ちょっとコピーを取ってくる」と言った松澤さんは、ついでにブラックコーヒーを買ってきた。「さすが松澤さん、黒ずくめですね」と、私は言った。
五町田といえば私にとっては大学1年のインカレ個人戦テレインで、その後4年時の本セレ(関東インカレ)でも走った懐かしい場所である。冬の乾燥した時期にしか走ったことがなく、葉の落ちた広葉樹の森と針葉樹のコントラスト、というイメージが強かったが、今回は緑が濃くなる時期でスタート前にスコールもあり、割と湿っぽい空気だった。地図も1:15000から1:10000、植生も3段階から4段階になり、山の中に入っても懐かしいというよりは「初めて来た場所」という感触だった。
レースはスタートリストを見た時はかなり熱い展開が予測されたが、2分後の加藤くんが欠場となったため、4分後の松澤さんが追ってくるのを意識しつつ進めることとなった。冒頭の通り、「黒い弾丸」とも異名を持つ松澤さんであるが、4分あれば簡単には追いつかれるものではないだろうと自分に言い聞かせ淡々と進めた。実際悪くないテンポで進めてこれは逃げ切れるのではと思いつつも、何やら気配を感じ17の手前20mの尾根越えでふと後ろを振り返ると、そこには黒い弾丸の姿が見えた。1分弱の差。その後はダウンヒル基調でもあり何とか追いつかれずにレースを終えた。
私は辛くも背後に忍び寄る黒い影から逃げ切ることができたが、大会自体はさらに黒い獣の出現により中断となってしまった。残念ではあったが、聞いた情報(子連れの熊だったとか)からすると迅速かつ的確な判断だと思うし、事故を防ぐことができたのはよかったことだと思う。
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